慢性咳嗽・長引く咳について
奈良県香芝市 ノアクリニック 内科・呼吸器内科
こんにちは、ノアクリニック院長の青野です。今回は長引く咳についてです。
長引く咳
鼻・のど、気管支、肺など呼吸器系は、菌やウイルスだけでなく、気候の変化やホコリ・花粉などにも影響を受けやすく部分です。特に冬は暖房などで特に空気が乾燥しているので、鼻・のど、気管支などの粘膜が乾燥しやすくなり咳が起こりやすくなります。また長時間の会話、食事、香水・匂い、胸やけ・消化不良、熱気や冷気によって咳が誘発されると考えられます。
長引く咳は、のどの痛みや胸の痛みを引き起こすだけでなく、睡眠の妨げになるなど体力も奪われ、生活に支障を来たすことも多くあります。その後に症状がこじれて気管支炎や肺炎、気管支喘息などの病気に発展してしまうこともあります。
長引く咳では様々な症状を抱えている
- 社会生活における様々な支障(周囲の目が気になるなど)や労働生産性の低下
- 響くような胸の痛みや頭痛
- 吐き気や息苦しさ
- 尿失禁
- 睡眠障害
- 抑うつ・不安などの精神的ストレスなど
このような併発する症状が報告されており、身体的、精神的、社会的な生活全般に多くの影響を及ぼします。
慢性咳嗽とは
8週間以上持続する咳は慢性咳嗽と分類されます。
- 急性咳嗽 :3週間以内の咳
- 遷延性咳嗽:3週間以上続く咳
- 慢性咳嗽 :8週間以上続く咳 に分類されます
※急性咳嗽の原因の多くは感冒を含む気道感染症ですが、持続期間が長くなるにつれて感染症そのものが原因となることは少なくなります。
※気道感染症後も続く咳は、原因微生物やウイルスなどによる気道上皮や粘膜の傷害が誘因であるため、微生物やウイルスが排除されても気道の炎症やリモデリングの悪化のため、気道上皮や粘膜が完全に治りきるまでは後遺症として咳が長引きます。
(日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019)
遷延性咳嗽・慢性咳嗽への対応
(日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019)
咳喘息(CVA:cough variant asthma)
咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わない慢性咳嗽です。症状は就寝時や深夜あるいは早朝に悪化しやすいですが、昼間のみに咳を認めることもあります。上気道炎、冷気、受動喫煙、会話、運動、飲酒、ストレスや精神的緊張、雨天や低気圧、花粉や黄砂の飛散などで増悪することが多いです。
治療方針は喘息と同様に、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬の吸入を行います。
短期間で効果が出ることもあれば、時間がかかることもあり経過を見ていく必要があります。
※重症例や悪化時の連の睡眠障害などの症状が強い場合には、経口ステロイド薬を短期間併用して発作をリセットすることもあります。
- 吸入治療で症状が速やかに軽快すると薬剤を減量できますが、治療中止するとしばしば再燃して咳症状が悪化することがあります。
- 難治例や症状が持続する例では長期の吸入治療の継続が必要となります。
- 咳喘息から典型的な喘息へと移行していくことも30-40%と高頻度でみられます。
アトピー咳嗽
アトピー咳嗽は、8週間以上の咽喉頭のイガイガ感を伴います。喘鳴を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続し、アトピー素因のある方で咽喉頭の掻痒感があります。上気道炎、気温・湿度・気圧の変化、受動喫煙、会話、運動、ストレス、花粉や黄砂の飛散などで増悪することが多いです。
治療方針は咳喘息と異なり、気管支拡張薬が全く効きませんので、ヒスタミンH1受容体拮抗薬が特効薬となります。気管支拡張薬が無効であることを確認して咳喘息を否定した上で、ヒスタミンH1受容体拮抗薬やステロイド薬が有効であった場合に治療的診断をすることができます。
アトピー咳嗽は予後良好な疾患で、長期的に喘息の発症などの進行は認めませんので、症状が軽快すれば治療中止が可能です。
通年性喉頭アレルギー
通年性喉頭アレルギーを疑う場合、慢性咳嗽と咽喉頭の異常感が8週間以上持続し、アトピー素因がもともとある方で、下気道疾患、GERD、後鼻漏症候群が除外され、治療的診断としてヒスタミンH1受容体拮抗薬が著効することがポイントとなります。
胃食道逆流症(GERD)
GERDによる咳嗽の診断は、まず病歴や問診からPPI、消化管運動機能改善薬、食生活の改善といった胃食道逆流症に対する治療により、咳が消失または緩和することで診断されます。
GERDに特徴的な病歴として、会話、食事中、体動・就寝・起床直後、上半身の前屈や体重増加などのタイミングで咳の悪化や、胸やけ等の症状、咳払い、嗄声、咽喉頭異常感などの症状を伴うことです。また、咳込みによる嘔吐、咳の原因と考えられる薬剤の服薬がなく、咳喘息や上気道疾患等の咳の原因に対する治療への反応が不十分である場合にもGERDの合併を疑います。
感染後咳嗽
感染後咳嗽とは、「呼吸器感染症(特にかぜ症候群)の後に続く、胸部X線写真で肺炎などの異常所見を示さず、通常、自然に軽快する遷延性ないし慢性咳嗽」と定義されます。
- かぜ症候群が先行していること
- 遷延性咳嗽あるいは慢性咳嗽を生じる他疾患が除外できること
- 自然軽快傾向がある場合 に診断されます
通常は自然軽快しますが、禁煙やマスクの着用で咳嗽誘発の刺激を避けること、引水や飴玉により喉を潤わせることなどの対策が必要です。
副鼻腔気管支症候群(SBS)
副鼻腔気管支症候群は、呼吸困難発作を伴わない湿性咳嗽が8週間以上持続し、鼻閉感や後鼻漏などの慢性副鼻腔炎の症状もみられます。
また、気道での粘液産生や慢性気道感染から喀痰や膿性痰がみられるため、14・15員環マクロライド系抗菌薬や喀痰調整薬による治療が有効であった場合に確定診断されます。また局所ステロイド治療も有効なため、鼻噴霧用ステロイド薬も使用します。
難治性の慢性咳嗽
- 原因疾患がわかっているが、治療しても咳が続く状態(治療抵抗性の慢性咳嗽)
- 検査や治療でも咳の原因がわからない状態(原因不明の慢性咳嗽)
近年、咳嗽メカニズムとしてP2X3受容体が関与していることが明らかとなりました。P2X3受容体は、気道の迷走神経のC線維上にみられるATP依存性イオンチャネルです。咳は気道内のATPという物質がP2X3受容体に結合することで、受容体が開いて陽イオン(カチオン)が通過し、その刺激が神経を伝わって起きるとされます。
リフヌア
2021年11月、選択的P2X3受容体拮抗薬であるゲーファピキサントクエン酸塩(リフヌア®)が承認されました。リフヌアは、P2X3受容体にはたらいて刺激が伝わるのを防ぐ作用があり、咳を抑えると考えられます。
- リフヌア®錠を服用した際に多く現れる副作用には、味が変わった・味がわからないなどの味覚異常があります。
- 薬剤開発時に行われた治験では、味覚異常の出現は65.4%と高頻度でみられます。
多くは服用から数日以内に症状が出現し、服用を終了すると96.0%が回復しています。
効果としてはかなり期待できる薬剤ですが味覚障害が多いというのがネックです。
咳を止める代わりに味がしにくくなるのをどこまで受け入れることができるかがポイントであり、長く咳が続き、苦痛が強い人に勧めることになります。
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